製薬会社・マルホ社でアトピー当事者の実情と今後期待することについて講演しました!

2017年4月11日、アトピー向けの医療用医薬品を販売しているマルホ株式会社さんの大阪本社にて、講演およびワークショップをおこないました。untickleにとって、初となる製薬会社との取り組みでしたが、今回はそのレポートです。

<取り組み概要>
-企画運営:
株式会社ペイシェントフッド(以下、じんラボ) https://www.patienthood.net/

– 場所:
マルホ株式会社本社 https://www.maruho.co.jp/

-目的:
アトピー患者の体験と想い・リアル、そして期待を知り、自分事として落とし込んでもらう患者視点導入プログラムの検討

-当日の流れ:
1 – 挨拶・自己紹介
2 – untickle野村の講演
3 – Q&A
4 – ワークショップ
5 – 全体共有・振り返り

当取り組みの詳細の前に、まず、アトピー界隈における現状と、なぜ弊社がこの企画を引き受けたかについて触れておきたいと思います。

アトピー当事者と皮膚科医、製薬会社に存在する溝

溝

アトピー当事者にとって薬を使うことは必ずしも当たり前のことではありません。

アトピーの薬といえば、今のところはステロイド外用剤、すなわち、ストレスに対抗したり、免疫の働きを抑えたりする糖質コルチコイド(副腎皮質ホルモンの一つ)を人工的に合成した薬が一般的です。

1992年、ニュースステーションでのステロイドに関する報道および司会者であった久米宏氏の、「ステロイド剤は極力使うべきでない」といった旨の発言が、今で言う炎上状態になりました。

その後、ステロイド剤に対する不信感は、ステロイド剤などのアトピー薬を作っている製薬会社も、それを処方するだけの皮膚科医も、私たち当事者とちゃんと向き合ってくれていない、といった不満へと繋がります。さらに、乱立した情報や、自身のステロイド療法の失敗経験などの要素が加わって、現状でも多くの当事者と皮膚科医・製薬会社の間には、深い溝があるように感じています。

溝を埋めることは、当事者のQOL向上に繋がりうる

A better life
untickleはステロイド療法に何度も失敗した経験を持つ私野村が代表で運営しているため、やはり皮膚科医・製薬会社への感情があまり良くなく、活動開始時から去年までの3年間は、中立とは言えど、こういった方々と繋がる事にあまり積極的ではありませんでした。

そして3年を経たとき、
– 長期ステロイド使用から薬なしでアトピーを改善させる、いわゆる脱ステ方式には大きな犠牲と覚悟が必要である

– 脱ステをした場合、ひどい好転反応の時期に挫折するリスクが低くない

– 脱ステの先に必ずしもアトピーからの開放が一生待っているわけではない

– そもそも人によっては脱ステできる環境がない

– アトピー改善において、ステロイド含めた薬を使用すべきか否かが最も重要な要素ではない

といった事に気付きました。

そして今年に入ってからは、
– 薬の使用については、なるべく俯瞰かつ正確な情報をもとに最終的に自分自身で決める

– アトピーは自己免疫疾患の要素が強いため、本格的な改善を目指す場合、免疫の乱れを改善させるための対策が最も重要である。この免疫改善に加え、QOLなどの観点から、「症状を抑える」薬を使用するか否かが検討されるべきである

– いま当事者に必要なのは、上記に似た考えをもった医師や専門家、企業、患者団体など様々な分野・業界が融合し連携された仕組みである

といった考えのもと活動しています。

また、これまではuntickleが頑張って動いて一から仕組みを作ってこの世界を実現していこう、といった考えが強かったですが、いまは、みんなで連携してこの世界の早期実現を目指しませんか、ということを、色々な組織の方々に呼びかけている状況です。

この融合された仕組みの実現のためにも、当事者と皮膚科医・製薬会社との溝が埋まる必要がある、という判断から今回のお話を引き受けました。

というわけで、前置きがかなり長くなってしまいましたが、やっとここからは、当日のイベントの様子になります。

当事者かつuntickleから非当事者かつ製薬会社の方々に伝えたいこと

今回、私の講演は40分間という長めの尺であったため、資料も多めに用意しました。その中から何枚かピックアップしてご紹介します。

▲ プレゼン資料1P目。資料作るにあたって、非当事者の方々に、自分の経験も含めたアトピーの実情をいかに分かりやすく伝えるか、を意識したつもりですが、初めての事だったのでなかなか難しかったです…。

▲ ページタイトルには「重症化した当事者」と書きましたが、これらは全てひどい時の私のことで、かつ重症化した経験のある方々からの共感度が高かった項目です。

▲ 重度のアトピーになると、皮膚にだけじゃなく、思考にも深刻な影響がでる、という事を伝えたくて資料に入れました。(言い訳ですが、普段野村のタスク処理が遅い・できないのもこの理由が大きいです….)

▲ よく聞かれる質問内容もいくつか紹介しました。これはあくまで私の考えです。たいていは医師や薬に対する感情が理由で行かれない方が多いかと思います。

▲これは非当事者だけでなく重度経験のない当事者の方にもよく聞かれる質問です。本当に辛いときは、まさに植物人間状態に近い状態です。

▲ 「製薬会社の方々にリアルな声を届ける」という事で、オフ会とかで共感度トップグループに入るこの内容も、もうこの際いいか、と資料に入れました。(もちろん、そう思ってない方も沢山いらっしゃいます…!)

▲ 最後のページ。この記事の前半に書いた内容と同じです。
マルホ-8▲ 今回、私の体調があまり良くない状態での講演だったので、マルホさん側で、帽子着用、椅子に座ったまま、部屋の明かりをちょっと暗めに、といった配慮をして下さいました。おかげ様で少し緊張や不安がほぐれ、全体的にたどたどしかったですが、なんとか無事終えることができました。極力感情的にならずに、でも伝えたいことは一通り伝えられたかなぁと思っています。

ワークショップを通じてアトピー当事者の視点になって真剣に考えてみる

マルホ1

私の講演およびQ&Aの後に行われたワークショップは、

1 – ほぼ全員非当事者であるマルホさんの方々が真剣にアトピー当事者になったつもりで考える
2 – その様子を当事者の私が見守り、ときどき個別の質問にお答えする
3 – グループ発表の内容に対して一言ずつ感想を伝える

といった流れだったのですが、これまで患者と製薬会社の架け橋となるワークショップを何度も開催されているじんラボさんが、当日の進行も全てやって下さった為、とても充実度の高いワークショップだったのではないかと思います。

じんラボ1▲ 引用元:じんラボ資料 – 一つめのテーマは、仕事、家族、睡眠の3つに関して当事者の立場になって、どういう事に困りそうか具体的なシーンを考え、さらに、出された様々な意見に対して、自分ならどんなサポートがあったら嬉しいと思うかを考えてみる、というものでした。

じんラボ2▲ 引用元:じんラボ資料 – 一度深く当事者の立場になって考えたあとで、今の自分の立場で(例えばマルホ社のMR、人事、広報、あるいはママ、上司など)できることは何か?を考える、というのが二つめのテーマ。

じんラボ3▲ 引用元:じんラボ資料 – そして最後はワークショップ全体を通じて感じたことを整理する時間。全体的にかなり盛り沢山の内容でした。

マルホ2▲日ごろ私は「アトピー当事者の実態をもっと知ってほしい」といった事を言っていますが、実際に真剣に当事者のことを考える非当事者の方々を見ていて、「新鮮、衝撃、感動」が入り混じり、アドレナリンが大量に放出されていたような感じでした。

時には薬を活用し、でも薬だけに頼らないことの必要性を製薬会社側でも啓蒙をして欲しい

連携

今回の講演及びワークショップの様子を拝見していた感想として、マルホさんがもっと私たちアトピー当事者のことを知り、将来的に行動に繋げられるよう会社の体質を変えていきたい、という思いがとても伝わってきました。今後どのように変わっていくのか、一当事者として楽しみです。

今回の取り組みのテーマである「患者視点」という言葉は、一見とても意義のある言葉であるものの、これだけでは具体性に欠けるため、場合によっては都合よく使われるだけ、という可能性もあると感じています。

何を持って患者視点というのかは会社それぞれですが、今回、国内でいち早く、きちんとアトピー当事者の声をもっと聞くべきだという姿勢を示してくれたマルホさんには、ぜひとも多くの当事者に届くような形で「患者視点」を具現化して頂けたら…と願っております。

前半でも述べたように、アトピーという疾患は現時点ではまだ薬だけでは完治には至りません。でも症状が辛い時期に薬を使わずに乗り切ることはとても大きな犠牲と覚悟が必要であるため、特にQOLを考慮した場合、薬を使用することは十分に現実的な選択の一つであると言えます。

いずれにせよ、免疫の改善の為の対策は必要不可欠であることを、皮膚科医にも製薬会社にももっと認知・啓蒙して頂き、もっと分野・業界を越えた当事者の為の仕組み作りに協力して頂きたいと切に願っています。

最後に、今回貴重な機会を下さったじんラボさん、マルホさんに心より感謝致します!

この記事を書いた人

野村 千代
野村 千代
untickle発起人。生まれつきアトピーで重度の症状により過熟白内障を患い失明状態に。その後も症状の悪化により3度社会生活を中断。2013年に本格的なアトピー改善に取り組むも、情報混乱のせいでなかなか自分に合う対策法が見つからず、苦労したことがきっかけで、untickleを立ち上げる。
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